ミックファイアの出走したG1競走・東京大賞典を語りつつ、OM-1を使った競馬撮影について書いていく。タイトルホルダーのラストランとなった有馬記念も数カットだけ。
intro
2023年12月29日。世間にとっては年の瀬だが、一部の人々にとっては忘れがたい日だ。
この日、無敗の七勝馬にして無傷の三冠馬*1 、〝ミックファイア〟が東京大賞典競走に出走していた。それはミックファイア号が初めて経験する古馬*2 との競争であり、海外国際競争1位の実績を持つ強豪馬〝ウシュバテソーロ〟との対決でもあった。
ミックファイアにとって簡単な勝負だとは思わない。それでも勝ってほしいと願っていた。
つまり私もミックファイアに脳を灼かれたファンの一人なのだ。この日彼を目撃するために大井競馬場を訪れた。
着いたらまずはモツ煮の補給とウォームアップ撮影。写真はないが大井のモツ煮はとても美味しい。大井のクラフトビールもスタウトが美味い。写真はないが。
method
競馬写真で馬の顔をしっかり見せる & 圧縮効果を活用する & 被写体深度を浅く見せるためには、隊列の正面から撮るのが良さそうではある。ご同業は見たところ、スタンド最前列に立って4角(最終コーナー)の方へレンズを向けることで、隊列正面に近い角度を得ている。全力で駆け込んでくる馬隊列の中で目的の馬にピントを合わておくためにも、なるべくコースの奥まで見渡せる場所が良い。
私は最前列を確保していないので、基本的に人々の頭越しにコースを横から撮る。この角度だと f/3.2 まで開けてもまだピンに深さがある。馬の足と砂までしっかり止めたいので、SSは最低1/1600。確実に止めるなら1/2000以上は欲しい。流し撮りを身に着ければまた変わるだろうけれど。
連写モードは完全電子シャッターのSH2 (20fps) で全く問題を感じず、むしろメカニカル連写10fpsではレートが足りない。α9の完全電子シャッターではちょっと流すだけで簡単に背景が歪んでしまっていたので、センサ読み出し速度の点はやはりマイクロフォーサーズが強い。
地方競馬場は概してスタンドとコースが近くて撮りやすい。大井競馬場もご多分に漏れないが、4角は遠い。横撮りなら換算300mmあれば十分に感じたが、隊列の4角脱出を正面から狙うなら、換算500mmくらいのレンズが欲しい距離だ。
そして東京大賞典競走が始まる。
race
初心者としての腕と2列目頭越しという場所取りの問題。隊列後方に構えたミックファイアは、ついに写真に収めることができなかった。
しかしミックファイアという馬は基本的に先行馬。後方に構えている時点で、彼のレースは噛み合わない事態に陥っている。
結果を言えば、ミックファイアは8着に敗れた。陣営の無念たるや想像に固くない。
「負けたことがない」という言葉は、「いつか負ける日がまだ来ていない」ことの裏返しでもある。しかしミックファイアのファンは今日、それでも勝ってほしいと願って大井にやってきた。陣営とて無論、勝つつもりでやってきただろう。
だが勝てなかった。今日のミックファイアはパドックから神経質な様子を見せており、スタートでも出遅れてしまっている。それを差し引いても、ウシュバテソーロの走りは全ての馬を差し切るに十分だった。
文句のつけようがない。私にできるのは、強敵の名勝負に拍手を送ることと、ミックファイアの4歳馬戦を楽しみに待つことだけだ。きっと強くなってまた目の前に帰ってきてほしい。待っている。
appendix: m4/3 and horserace
ここからはマイクロフォーサーズと競馬撮影についての話。
OM-1による競馬撮影のウィークポイントとして、とにかくマイクロフォーサーズ (m4/3) は高感度撮影に弱い(ノイズが乗りやすい)という点が挙げられる。
m4/3の基礎定理は「強力な手ブレ補正でSSを下げ感度を低く保つ」ことだが、競馬のようなスポーツ撮影では、手ブレに関係なく「被写体を止める」ためにSSを上げなければならない。これは矛盾しており、おそらくm4/3というフォーマットにこのジャンルは根本的に不向きだ。
有馬記念をこなした際には、ISO640を超えたところから芝や砂といった細かいテクスチャが大きく削がれていた。この日のカットは基本的にf/5.6だが、装着していた TC 1.4x テレコンの影響か描写が甘く感じる。テクスチャのロスもテレコンの影響かもしれない。ともかくm4/3で日没に近いレース(特に悪天下)を撮るのが難しいのは確かだ。さらにm4/3はフルサイズの2倍まで被写界深度が深くなるのも、写真の美観的にやや辛い。
しかし「m4/3で冬競馬は撮れない」とは思わない。私の腕でもこの程度は撮れているのだから、もっと上手くできると思う。
注釈
*1 無敗の七勝馬にして── とてもすごいこと。この時点では中央馬との交流重賞も含んでの無敗で、かつ3歳ダート三冠競走(3歳ダート馬の頂上決戦)を全勝していた。すごくすごい。 *2 古馬 競馬では4歳馬以降をこのように呼ぶ。競走馬は2歳でレースデビューする。翌年の3歳もまだまだ成長途上であり、3歳までは同一馬齢限定のレースもある。各競走馬陣営はこの2年間で、その馬の強みとなるスタイルやレース距離を習得し or 馬に習得させ、4歳を迎えてからはおおむね「その筋の専門家」として年下年上の区別なく他馬と戦っていくことになる。